音韻的対照
母音
母音の数
日本語:ア イ ウ エ オ の5つ
英語:16~26母音 中国語:6~36母音 韓国語:8~10母音 ベトナム語:11~12母音
日本語の5母音の分布
舌の位置が前か後か、高いか中くらいか低いか イ:前高 エ:前中 ア:中中 オ:後中 ウ:後高
学習者にとって日本語の「母音の発音」は難しいか
日本語より多くの母音を持っているので、それほど困難ではないと言える
しかい、学習者の母音の発音がすべて問題ないわけではない
学習者の母音の発音にみられる問題
舌の高さによる「エとウの曖昧性」
「エ」を発音する際、口の開きが狭いため「イ」のように聞こえる場合がある
例:ペン⇒ピン 行けません⇒行きません 中国語母語話者に見られる
舌の丸めの有無による「ウとオの曖昧性」
「ウ」を発音する際、口の開きが狭いため「オ」のように聞こえる場合がある
例:売る⇒折る する⇒そる 中国語・英語母語話者に見られるが、韓国語とベトナム語話者にはあまり見られない
二重母音
日本語には二重母音がない 例:愛⇒「ア」・「イ」のように2つ分の音として扱う
英語・中国語・韓国語・ベトナム語では二重母音がある 例:愛⇒「ァイ」のように1つの母音として扱う
例:ハイ⇒日本語ではha・i 英語ではhai
意外:igai 痛い:itai 毎年:maitoshi
母音の連続と音の感覚
例:食べたい⇒ta be ta i の4つ分の音が ta be tai のように3つ分の音となる 再開:sa i ka i 4つ sa i kai 3つ
二重母音を持つ言語の母語話者の[ai][ei]など母音が連続する発音は、日本語母語話者には違和感がある発音として聞こえる
長音(長母音)
日本語では2つ分の音として認識される
例:そう⇒ソ・ー 2つ分の音として扱う
英語・中国語・韓国語・ベトナム語では1つの音として認識される
例:そう⇒ソー のように短く1つの音として扱う
高校⇒コ・ー・コ・ー 4つの音 コー・コー 2つの音
制度⇒セード 相談⇒ソーダン
子音
50音図で、同じ子音で発音できない音は?
しsi ちti つtu にni ひhi ふhu をwo
直音・拗音
直音:仮名1文字で示される音。清音と濁音と半濁音がある
拗音:直音のイ段の仮名に、小さいャ・ュ・ョを添えて示される音 きゃ しゃ ぴゃ
清音・濁音・半濁音
濁音:仮名表記で、濁点のある ガ ザ ダ バ 行の音
半濁音:仮名表記で、半濁音のある パ 行の音
清音:濁点、半濁点のない行の音。
日本語の「イ段」の子音
学習者にとって発音し難い音が多い
し ち に ひ
その他の発音し難い日本語の子音
つ ふ ら行 や行 わ
「拍」と「音節」
拍(モーラ)
仮名1文字分に相当する日本語の音の単位
例:しゃ ぎゃ ぴょ ん っ ー
音節
拍とは別の単位で、拍から「ん っ ー」を除いたもの
拍と音節の違いは、「特殊拍(撥音・促音・長音)」
撥音:ん
促音:っ
長音:ー
音の単位
日本語は「拍」による
例:学校⇒4拍
英語・中国語・韓国語・ベトナム語は「音節」
例:学校⇒2音節
「拍」という音の単位は日本語のもので、日本語以外の言語では「音節」が一般的
例:切手を買ってきてください ⇒ きてを かて きて ください
アクセント
日本語:高さアクセント(ピッチアクセント)
英語:強さアクセント(ストレスアクセント)
中国語とベトナム語:音調(高さアクセントの一種)
韓国語:無アクセント
日本語の「高さアクセント」は拍と拍の間で変化する(高低2段しかない)
中国語(北京語)の「音調」は4種類あり、音節の内部で変化する
マー マー マー マー
英語の強さアクセントは強さの位置で意味が変わるものは少ない
日本語:上昇イントネーションは主に疑問・問いかけ・質問を表す 下降イントネーション断定を表す イントネーションは変わってもアクセントは変わらない (雨? そう、雨)
学習者が苦手とする日本語の発音
類型化しやすい4類
拍(音の単位)に関わるもの
拍の中で、撥音「ん」促音「っ」長音「ー」は、特殊拍と呼ばれ、日本語に特有の音声的な単位であるため、学習者にとっては困難なものとなる。
長音「ー」
長音が発音されないか短い、反対に長音がないのに前の母音が長く発音される
例:ページ⇒ペジ 昨日⇒きの 宿題⇒しゅーくだい
母語別の傾向
英語・中国語・韓国語・ベトナム語
促音「っ」
促音が発音されないか短い、反対に促音がないのに促音があるかのように発音される
例:切符⇒きぷ 猫⇒ねっこ
母語別の傾向
英語・中国語・韓国語・ベトナム語
撥音「ん」
「ん」が前の音と合わせて1拍と認識されてしまうほど短く発音される
例:先生⇒センせ 今度⇒コンど
撥音の直後の結びついてしまう
例:本を⇒ほの 日本へ⇒にほね 多分あります⇒たぶなります
母語別の傾向
英語・中国語・韓国語・ベトナム語
調音法(音の出し方)に関わるもの
ま行/ぱ行の混同
[m][b]は、どとら音声の両唇音で、調音法だけが異なる。そのため、[m][b]が同じように扱われる場合がある。例:二倍⇒にまい 二枚⇒二倍 さみしい⇒さびしい
母語別の傾向
ベトナム語
だ行/な行/ら行/の混同
[d][n][r]はいずれも、音声の歯茎音で、調音法だけが異なる。そのため、[d][n][r]が同じように扱われる場合がある。例:来年⇒だいねん、ないねん 名前⇒だまえ、らまえ 階段⇒かいなん、かいらん
母語別の傾向
中国語・ベトナム語
「つ」⇒「トゥ/ス」
「つ」は、無声・歯茎・破擦音であるが、母語でこの音を使ってない学習者は、[t]か[s]で代用しようとするため。
例:机⇒トゥくえ、すくえ 疲れた⇒トゥかれた、すかれた いつも⇒いトゥも、いすも
母語別の傾向
英語(多い)・韓国語・ベトナム語
調音法(音を出す位置)に関わるもの
「つ」⇒「チュ」
「つ」は、無声・歯茎・破擦音であるが、母語でこの音を使ってない学習者は、それより少し後ろの無声・歯茎・破擦音で発音されてしまうため。
例:机⇒チュくえ、すくえ 疲れた⇒チュかれた、すかれた いつも⇒いチュも
母語別の傾向
韓国語・ベトナム語
調音法(音を出す位置と音の出し方の両方)に関わるもの
「じゃ行/ヤ行」の混同
ベトナム語には、無声・歯茎硬口蓋・破擦音がない、無声・硬口蓋・半母音がない地域もあり、この2つが曖昧になるため。
例:非常口⇒ひようくち 住所⇒ゆうしょ 家族⇒かよく 早く⇒はじゃく 夢⇒じゅめ 火曜日⇒かじょうび
じゃがいも⇒ざがいも、やがいも 住所⇒ずうしょ、ゆうしょ 女性⇒ぞせい、よせい
母語別の傾向
ベトナム語
濁音点(音を出す位置)に関わるもの
無音音と有声音の混同に関わるもの
「か行/が行」「た行/だ行」「ぱ行/ば行」の混同
無声音と有声音の区別が曖昧であるため。
例:近い⇒ちがい 違い⇒ちかい 固い⇒かだい 課題⇒かたい 3班⇒さんばん 三番⇒さんぱん
母語別の傾向
中国語・韓国語
形態的対照
「名詞」の形態的対照
「格表示」の対照
日本語:あり⇒私が 私を 学生が 学生を 本が 本を
韓国語:あり
中国語:なし
ベトナム語:なし
英語:なし 代名詞のみ語形変化がある
「単数・複数」の対照
日本語:なし
韓国語:なし
中国語:なし
ベトナム語:なし
英語:あり⇒book/books child/children 文法上の単数・複数の区別に従って、形態的な変化がある。
形容詞「過去」の形態的対照
日本語:あり⇒おいしい/おいしかった おおきい/おおきかった 形容詞そのものが過去の形態を表す
韓国語:あり 形容詞そのものが過去の形態を表す
中国語:なし
ベトナム語:なし
英語:なし
「自動詞・他動詞」の形態的な対照
日本語:あり⇒開く/開ける 壊れる/壊す 自動詞と他動詞の形態が異なる
韓国語:あり 自動詞と他動詞の形態が異なる
中国語:なし
ベトナム語:なし
英語:なし
形態的な特徴と日本語教育との関わり
語形変化(活用)における一般的な傾向
「韓国語」母語話者
日本語と形態的な類型が同じ膠着語タイプである韓国語は、語形変化の習慣上の問題が比較的少ない。
「中国語」「ベトナム語」母語話者
語形変化のない孤立タイプである中国語・ベトナム語の母語話者は、語形変化の習慣上の問題が比較的多い。
名詞「格表示」の形態的対照
「韓国語」母語話者
日本語と同様に格表示がある韓国語母語話者は、格助詞の習慣上の問題が比較的少ない。
「中国語」「ベトナム語」「英語」母語話者
日本語と異なり、格表示がない中国語・ベトナム語・英語母語話者は、格助詞の習慣上の問題が比較的多い。
形容詞「過去」の形態的対照
「韓国語」母語話者
日本語と同様に形容詞の形態変化がある韓国語母語話者は、形容詞の活用に関する習慣上の問題が比較的少ない。
「中国語」「ベトナム語」「英語」母語話者
日本語と異なり、形容詞の形態変化がない中国語・ベトナム語・英語母語話者は、形容詞の活用に関する習慣上の問題が比較的多い。
動詞「過去」の形態的対照
「韓国語」母語話者
日本語と同様に動詞の形態変化がある韓国語母語話者は、動詞の活用に関する習慣上の問題が比較的少ない。
「中国語」「ベトナム語」母語話者
日本語と異なり、動詞の形態変化がない中国語・ベトナム語母語話者は、動詞の活用に関する習慣上の問題が比較的多い。
「自動詞・他動詞」の形態的な対照
「韓国語」母語話者
日本語と同様に「自/他」の区別がある韓国語母語話者は、「自/他」の使い分けに関する問題が比較的少ない。
「中国語」「ベトナム語」母語話者
日本語と異なり、「自/他」の区別がない中国語・ベトナム語母語話者は、「自/他」の使い分けに関する問題が比較的多い。
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