★日本語教師の学習44/言語類型論

言語類型論

世界中で用いられている言語の数は、3000~6000

ある程度高い抽象度で、世界の言語を見て見ると、いくつかの共通した特徴をタイプ化(類型化)することができる。

多様な言語の中に、共通してみられる特徴に注目し、ある種のタイプに分けて論じる分野が「言語類型論」である。

「音韻的類型」「形態的類型」「統語的類型」などがある。

統語的類型

言語類型論の一つで、言語の類型を統語的側面から分類するもの。主に主語、述語、動詞という3つの要素の配列、すなわち語順に注目して構造的な類型を考える。

日本語と英語の例

日本語

ボブがトムを見た トムをボブを見た ⇒「が」が主語 「を」が目的語

英語

Bob saw Tom. ⇒動詞の前が主語 動詞の後が目的語

形態的類型

言語類型論の一つで、言語の類型を形態的な側面、特に、語形変化から分類するもの。語形変化には、まず動詞の活用があげられるが、他にも様々なものがある。

日本語の語形変化例

中心的な要素(食べ、大き、鉛筆)は変化せず、後部の要素が規則的に変化する

動詞:語形変化がある 食べ{る/た/ない}

形容詞:語形医変化がある 大き{い/かった/くない}

名詞:語形変化がある 鉛筆{が/を/で}

副詞:語形変化がない たくさん

英語の語形変化例

動詞の過去形に注目した3つのタイプ

規則的変化:enjoy⇒ enjoyed  不規則変化:go⇒ went  語形変化がない:cut⇒ cut

形態的類型の3タイプ

膠着(こうちゃく)語タイプ:実質的な意味を持つ語の語幹に接辞がつくという構造を持ち、その切れ目がはっきりしているタイプ(日本語、韓国語、モンゴル語など)

屈折語タイプ:語そのものが変化することにによって示され、その境界がはっきりしないタイプ(ラテン語、ギリシャ語など)

孤立語タイプ:名詞や動詞、形容詞に限らず語形変化を持たないタイプ(中国語など)

形態的類型

形態的類型の3タイプ

膠着(こうちゃく)語タイプ:実質的な意味を持つ語の語幹に接辞がつくという構造を持ち、その切れ目がはっきりしているタイプ(日本語、韓国語、モンゴル語など)

屈折語タイプ:語そのものが変化することにによって示され、その境界がはっきりしないタイプ(ラテン語、ギリシャ語など)

孤立語タイプ:名詞や動詞、形容詞に限らず語形変化を持たないタイプ(中国語など)

膠着(こうちゃく)語

実質的な意味を持つ語の語幹に接辞が付くという構造をもち、その切れ目がはっきりしているタイプ。

代表的な言語:日本語、韓国語、モンゴル語、トルコ語

日本語の動詞の語形変化例

食べ(動詞)させ(使役)られ(受身)てい(進行)た(過去)だろう(推定)

食べ(動詞)させ(使役)られ(受身)てい(進行)た(過去)そうだ(伝聞)

食べ(動詞)させ(使役)られ(受身)ていた(進行)た(過去)だろう(推定)

特徴

それぞれの切れ目がはっきりしており、それぞれが特定の意味・機能を持ち、それぞれの配列にも規則(語順)がある。

膠着語タイプにおける「名詞」の語形変化

・名詞の語形変化は、主に「格」「数」「性」に見られる。

・「格」は、統語論の「格関係」で学んだ「主格」「目的格」「与格」などを指す。

・「数」は、「単数、複数」などの区別を指す。

・「性」は、「男性、女性、中性」などの区分を指す。

・日本語では、「格」に関する語形変化があるが、「数」と「性」については語形変化がない。

「格」に関わる日本語名詞の語形変化

例えば、学生が 学生を 学生に 学生の のように 日本語文法では 名詞+格助詞 といえる。しかし、他の言語と関りを考える言語学では、これも一種の語形変化と考える。

文中では「学生」だけの形態で現れる事が出来ず、「が/を」など何らかの形態を伴わなければならない。

日本語形容詞の語形変化

例:(大きい)⇒(副詞)大きく、(名詞)大きさ

形容詞が副詞となる場合:形容詞の語幹+く

形容詞が名詞となる場合:形容詞の語幹+さ

屈折語

語そのものが変化することによって示され、その境界線がはっきりしないタイプ

代表的な言語:ラテン語、ギリシャ語など

例:go⇒went I⇒me

形に共通性がなく、それぞれの要素に分けることも出来ない

孤立語

名詞、動詞、形容詞など全ての語が語形変化を持たないタイプ

代表的な言語:中国語、タイ語、ベトナム語など

日本語と英語の例

日本語

ボブがトムを見た トムをボブを見た ⇒ボブが ボブを のように語形変化がある

英語

Bob saw Tom. Tom saw Bob ⇒Bob Bob 語形変化がない

孤立語タイプの言語を母語とする学習者の傾向

中国語、タイ語、ベトナム語などを母国語とする学習者は、語形変化を伴う学習項目の習得に問題が見られる場合が少なくない。

具体的には、動詞の活用、動詞詞・他動詞の使い分け、文法関係に応じた助詞の選択、モダリティと呼ばれる助動詞の習得などがこれにあたる。

統語型類型

言語類型論の一つで、言語の類型を統語的側面から分類するもの。主に主語S、述語O、動詞Vという3つの要素の配列、すなわち語順に注目して構造的な類型を考える。

「統語的類型」の基準となるS,O,Vの基本語順

S O V(40%強):日本語、韓国語、モンゴル語、トルコ語、ネパール語、等

S V O(40%弱):中国語、ベトナム語、インドネシア語、タイ語、等

V S O(10%未満):タガログ語、等

V O S(約3%):フィジー語、等

基本語順の違いは、「前置詞や後置詞の違い」「述語と助動詞の前後の位置」「名詞修飾における修飾節と名詞の順序など」の構造に関わっているため、日本語教育にとって重要である。

SOVかSVOの違いは、配列だけではなく、その他の語と語との配列、統語構造の違いにも関係している。

前置詞

英語の at,from,to などは、前置詞と呼ばれ、意味的な内容を表す名詞の前に付いて、文中での他の要素との構造的・意味的な関係を表すものである。

英語では前置詞は名詞の前に付く。

格助詞(後置詞)

駅で 駅から 駅に の 「で」 「から」 「に」

日本語では格助詞が名詞の後ろにに付く。

前置詞と格助詞(後置詞)の違い

前置詞は前に付くので 前置詞preposition 格助詞は後ろに付くので 後置詞postposition

統語的類型から見ると、「前置詞/後置詞」の違いは、「英語/日本語」の違いではなく、「SVO/SOV」の違いと言える。

主要部と補足部

文中の統語構造は、同じ価値のもの、対等なものが並ぶのではなく、一方が中心的でもう一方が従属的である場合が多い。

中心的なものを主要部、従属的なものを補足部という

※ 主要部と補足部の違いは意味的なものではなく、統語的な観点からなので、

例えば「to room」「部屋に」では「to」「に」が主要部となる。

なぜならば、「部屋に」は、意味的な内容は「部屋」という名詞が担うが、文中での統語的な働きには「に」が担っており、「存在」という意味を表す文では、「に」という統語構造が必要で、「部屋」は様々な名詞に置き換えられるが、「に」は他に置き換えられないからである。

主要部後行型と主要部先行型

SOVは「名詞+後置詞」=主要部後行型

SVOは「前置詞+名詞」=主要部先行型

動詞と助動詞の語順

助動詞

義務:~なければならない 否定:~ない 可能:~ことができる 推量:~かもしれない

SOVでは、助動詞は、動詞の後に位置する

SVOでは、助動詞は、動詞の前に位置する

名詞修飾

SOVは「修飾節+名詞」=主要部後行型

SVOは「名詞+修飾節」=主要部先行型

言語の系統

言語の系統と祖語

日系ブラジル人や日系ペルー人は、それぞれポルトガル語とスペイン語を母語とします。彼らは、言語は違うが、ポルトガル語とスペイン語でコミュニケーションをとることがあります。

両言語は、よく似ており、どちらも同じルーツを持つ言語から枝分かれしたものと考えららるからです。

両言語は、インド・ヨーロッパ語族のイタリック語派(ロマンス語派)に属する。

スペイン語、ポルトガル語、フランス語、イタリア語などは、共通の起源であるラテン語から分かれた同系の言語とされる。

祖語

複数の言語の共通の起源をいう。

言語の系統

通時的(歴史的)観点から複数の言語を比較して、共通の起源である祖語を探り、その祖語ごとの系統をいう。例えば、インド・ヨーロッパ語族、シナ・チベット語族などがある。

比較言語学

歴史的(通時的)な観点からの研究で、共通の起源に由来すると考えられる同系の言語を歴史的な観点から比較し、それらの共通の起源である祖語を明らかにしようとするもの。例えば、スペイン語、ポルトガル語、フランス語、イタリア語などは、共通の起源であるラテン語から分かれた同系の言語(ロマンス語族)とされる。

語族・語派

共通の起源である祖語から派生、発達したと認められる言語の集まりを語族という。また、語族を更に分けたものを語派という。例えば、シナ・チベット語族には、中国派、チベット・ビルマ語派、タイ語派が含まれると考えられている。

主な「語族・語派」

インド・ヨーロッパ語族

スラブ語派

ロシア語、ポーランド語、ブルアリア語、チェコ語、

ゲルマン語派

ドイツ語、英語、オランダ語、スウェーデン語、デンマーク語

イタリック語派

スペイン語、ポルトガル語、フランス語、イタリア語

インド・イラン語派

ネパール語、ヒンディー語

シナ・チベット語族

中国語、タイ語、ビルマ語

アルタイ諸語

モンゴル語、トルコ語

オーストロアジア語族

ベトナム語

オーストロネシア語族

インドネシア語

日本語の系統

日本語の系統は、明らかにされていない。また、韓国語、アイヌ語、バスク語も系統不明である。ただし、日本語は、アルタイ諸語(モンゴル語、トルコ語)の特徴との共通点も認められる。

アルタイ諸語の特徴

・原則としてSOVの語順をとる

・膠着語である

・母音調和を行う(例:雨戸⇒発音しやすいようにeをaに変え、あまど)

・語頭の音がRになりにくい(外来語以外でほとんどない)らりるれろ

・語頭に子音が2つ以上こない

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です