★日本語教師の学習43/理論言語学

構造主義言語学

1929年代後半からアメリカで発展した言語学的枠組み(ブルーム・フィールド)

言語の実態を記述することを目的とした文字を持たないアメリカの原住民の言語を分析して辞書と文法書を作るために、音声を聞き取り、音声文字(後に音声記号に発展)に書き表した

特徴

客観的データのみに基づいて、主観的な判断を全く入れない方法論の確立を目指した。言語は音声が主体であり、文法は文型として記述できると考えた

日本語教育との関り

「オーディオ・リンガルメソッド」の言語観に影響を与えた

オーディオリンガル・メソッドが影響を受けた言語観

文型練習(パターンプラクティス)の重視

言語は「科学的に分析・記述」「構造体」「文型」がある

文字より音声を優先させ、口頭練習を多用 「ミニマル・ペア(最小対)」により、tとdやrとlの対立などを意識させる

言語は「その母語話者が話すもの」「音声」「対立」

反復模倣練習(ミム・メム練習)の徹底

言語習得は「習慣形成の過程」である

文型は

「オーディオリンガル・メソッド」に基づく教室活動で重視され、文型シラバスのよりどころとなっている

文型に具体化される統語構造は、言語の運用に関わる複数の言語知識の一部でしかない

文型シラバス(構造シラバス)とは

文型を「易」から「難」に積み上げていくもの

構造的に類似性の高い文型をまとめて提示する

~してもいいですか? はい、~してもいいです いいえ、~してはいけません

文型に偏らないバランスのとれた教室活動が望ましい

文型に具体化される統語構造は、言語の運用の一部でしかない

言語運用には、言語知識だけでなく、社会言語的な能力、様々なストラテジー能力など、多くの知識や能力が関わっている

生成文法

1950年代に唱えられた言語理論(生成文法理論・生成言語理論ともいう)N.チェモスキー

日本語、英語、韓国語などの個別の言語的な知識を「個別文法」と呼び、言語の違いに左右されない「普遍文法」と区別する

普遍文法=言語獲得装置(生得的)

プラトンの問題

人間に外科医から与えられる資料は、個別的で量的にも質的にも偏りがあるのに、何故人間はこれほど豊かな知識を共有しているのか、というもの

生得説

人間は生まれながらに、言語を獲得する「言語獲得装置」というべき「普遍文法」を持っていると考える

普遍文法とは何か?

言語は「自律的なもの」なのか?

言語は他の能力から切り離され、自律的に存在しているのではなく、他社との相互作用などの社会的な認知能力と深くかかわっている

認知言語学

1980年代後半から台頭してきた新しい言語理論(ラネカー、レイコフ、ジョンソン)

言語能力は一般的な認知能力と区別することはできないと主張する。この点において、言語の能力を他の認知能力から独立したものとして捉える生成文法論と異なっている。

20世紀の言語理論

1920年代 構造主義言語学 ⇒音声・音韻的側面・形態的側面

1950年代 生成文法理論 構造主義言語学に対立する理論を展開 ⇒統語的側面

1980年代 認知言語学 ⇒意味的側面

認知言語学

特徴

「身体性」を重視する点や、「比喩」を意味の説明に取り入れる点などが、それまでの言語学的枠組みにない大きな特徴

言語の身体性

身体基盤

日常的な言語表現には、身体を基盤とした比喩的な表現が多くあることから、認知言語学では身体性が重視されている

名詞レベル

人間の認知能力の根底には、人間としての身体的な感覚、人間らしい概念把握の仕方

例:釘の頭 財布の口、椅子の脚

文レベル

人間の基本動作を用いた表現

例:話が見えない 要点を掴む

認知言語学における比喩

新しい物事やそれを現す表現が存在しない場合、人間は、人間の身体や身近な物に見立てて、新たな表現を作り出す。その際に重要な役割を果たすのが、「比喩」でると、認知言語学では考える。

人間は、身近な人間の身体に見立てて、新たな表現を作り出す、ということを見てきた。この「新たな表現を作りだす」ための見立ては、人間の身体だけでなく、身近な物も使われる。

比喩的に表そうとする認知能力が人間にはある。

従来、「比喩」は、詞歌や小説などの文学的な修辞法として、非日常的な「洒落た表現」だと考えられてきた。しかし、認知言語学では、比喩は「洒落た表現」だけだなく、人間の日常的な表現に不可欠なものと考える。特に、意味論で見た「多義語」では、「比喩」が大きな役割を果たしている。

カテゴリー

ある属性、性質、特徴、関係などの共通性を持ったひとまとまりのものを「カテゴリー」という。

古典的カテゴリー

同じカテゴリーの事例では、全て均等に同じ性質や関係をもつと考えられてきた。この考え方は、前回の「意味論」で取り上げた「成分分析」にも表れている。

古典的カテゴリーでは、共通する特徴を、あるかないかで捉えようとするので、典型例から外れる例は、共通の特徴を持たないため、そのカテゴリーに含まれないことになってしまう。

例:ラグビーボールは、丸くない

プロトタイプ的カテゴリー

カテゴリーの境界は明確なものではない。あるカテゴリーは「プロトタイプ」を中心に、外側へ行くに従って段階的にその特性が薄れ、周辺では他のカテゴリーと連続的に重なる。つまり、カテゴリーは全て均一ではない。

カテゴリーの段階性=プロトタイプ効果

例:コップ~グラス

プロトタイプの特徴

すぐに思い描けるもの 多くの人が同じように認定できる 幼いころから慣れ親しんでいる 長期的に安定的に記憶されている

このようなプロトタイプがそのカテゴリーの中心に位置する。

非プロトタイプ(周辺的成員)の特徴

プロトタイプ的な特徴の何れかを持っていない

例:鳥らしくない鳥=フクロウ、ペリカン、ペンギン

カテゴリーの拡張

例:「晴れ」「曇り」は天気のカテゴリーから心情のカテゴリーへ拡張が認められる

「意味の拡張」は「カテゴリーの拡張」であると考える。

意味の拡張を引き起こすものが「比喩」である。

比喩

認知言語学(特に、認知意味論)では、「意味の拡張」は「カテゴリーの拡張」であると考え、意味の拡張を引き起こすもの が 比喩である

メタファー(隠喩) メトニミー(換喩) シネクドキ(提喩)

メタファー(隠喩)

類似性の連想に基づき、「よくわからないもの」を「よくわかるもの」で表す比喩

例:パソコンのマウス=ねすみに似ている クラウド=くも 気が晴れる 心が弾む 心が踊る

メトニミー(換喩)

目立つものを使って、隣接関係にあるものを表す

例:鍋を食べる=中身 洗濯機が回る=部分 ショパンを聴く=作品

シネクドキ(提喩)

上位語と下位語の包摂関係に基づく比喩的拡張で、「上位概念」で「下位概念」を指したり、「下位概念」で「上位概念」を指したりする。

例:お花見=桜 コーヒーでも飲みに行こう=飲物

知識構造

認知言語学では、ある表現の理解には、言語的な意味だけではなく、それ以外の様々な知識や経験などが働いていると考える。それぞれの知識・経験・は、個別に存在するわけではなく、一定の構造を持って整理されている。

スキーマ フレーム スクリプト

スキーマ

個々の具体的な細かい特徴を捨象した抽象的な知識構造

認知言語学では、音韻、形態、語彙、意味、構文にもスキーマを認める

例:動詞「タ形」のスキーマ

語幹+{タ/イタ/ッタ/ンダ} 食べた 書いた 切った 読んだ

フレーム

ある概念を理解するのに前提となるような知識構造をいう

フレーム的な知識が多く必要な語は理解や説明が難しい

例:「桃太郎のお話」に出てくる キジの説明は易しいが、家来の説明は難しい

スクリプト

時系列に沿った連続する具体的な場面によって構成される知識構造 シナリオ、シーン ともいう

例:スーパーで買い物をする

 

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