ポライトネス
一般的なことばとしてのポライトネスは、礼儀正しさ、丁寧さ、または、礼儀正しい言葉などを指す。
従って、日本語の言語行動では、敬語(尊敬語や謙譲語など)や丁寧体で(です・ます体)などが思い浮かぶが、ここでいうポライトネスとは、このような定義正しさや丁寧さだけではない。
日常的な語の意味としての「丁寧さ」とは異なり、会話の参加者が心地よくなる(不愉快な思いをしない)ように、また、不要な緊張がないように配慮するなど、人間関係を円滑にしていくための言語行動を指す学術用語。
従って、親しい友人同士や家族の普通体、タメ口もも含む。
ポライトネス理論(ブラウン&レビンソン)
ブラウン&レビンソン:1980年代以降
ポライトネスとフェイスという概念を鍵とし、コミュニケーションにおいて人間関係を円滑にするためのもの。
言語的ストラテジー(工夫や方法)を考察する語用論の理論
フェイス
人と人とのかかわり合いに関わる「基本的な欲求」を指すもの
ポジティブ・フェイス
他者と近づきたい繋がりたいという、他者や集団の関わりを望む欲求。ポライトネス理論では、人間には、他者に好かれたい、ほめられたい、認められたい、理解されたいという、近づきたい繋がりたいという欲求があると考える。
ネガティブ・フェイス
他者と離れていたい自由でいたいという、他者や集団から距離を置くことを望む欲求。ポライトネス理論では、人間には、他者に邪魔されたくない、干渉されたくない、立ち入られたくないという、束縛からの自由を望む欲求があると考える。
ポジティブフェイスとネガティブフェイスは、個々人に固定的なものではなく、一人の中で、ポジティブフェイスが強い場合とネガティブフェイスが強い場合がある。
「FTA」と「ポライトネス・ストラテジー」
実際の言語行動では、「ポジティブ・フェイス」が強い相手に、冷たく当たってしまったり、「ネガティブ・フェイス」が強い相手に、馴れ馴れしく接してしまったりすることもある。そのような場合は、FTAとなる。
FTA(Face Threatening Act)
人間の基本欲求である「ポジティブ・フェイス」または「ネガティブ・フェイス」を、他者が脅かすような言語的な行動。
FTAに配慮すること自体が「ポライトネス」である。
ポライトネス・ストラテジー
「ポジティブ・フェイス」または「ネガティブ・フェイス」を侵害しないように配慮したストラテジー
ポジティブ・ポライトネス
ポジティブ・フェイスに訴えかけるストラテジー
ネガティブ・ポライトネス
ネガティブ・フェイスに配慮するストラテジー
ポジティブ・ポライトネス
相手のポジティブ・フェイスを確保しようとする言語による行為
他者に好かれたい、ほめられたい、認められたい、理解されたいという欲求に応えるもの
ほめる、認める、敬意を示すなど
他者と近づきたい、繋がりたいという欲求や仲間意識を持ちたいという欲求に応えるもの
挨拶する、同意する、共感する、注目する、仲間内のことばやタメ口ではなす、方言を使うなど
場をなごませる冗談やダジャレも人間関係を円滑にするために重要かつ効果的
ポジティブ・フェイスを脅かす行為
ポジティブ・フェイスを脅かす行為は、FATとなる
無視 ⇒ 挨拶をする
反対する ⇒ 同意する・共感する
批判する ⇒ 同意する・共感する
不平不満を言う ⇒ 同意する・共感する
しかる ⇒ ほめる・認める
けなす ⇒ ほめる・認める
うらやむ ⇒ 仲間意識を持つ
自慢する ⇒ 仲間意識を持つ
ネガティブ・ポライティス
相手のネガティブ・フェイスを確保しようとする言語による行為
ネガティブ・フェイスを確保しようとする言語行為
相手のネガティブ・フェイスを脅かすことへの予告であり、他者に邪魔されたくないという相手の欲求に配慮する
例:町で見知らぬ人に道を尋ねる際などに「前置き」を用いる
あのー、すみません ~
相手との距離を一定に保ちたいというネガティブ・フェイスに配慮した言語行為
例:あまり親しくない人や見知らぬ人に、敬語や丁寧体を使って話す
何かを頼んだり、忠告したり、指示するときの配慮
例:ごめん、醤油取ってくれる?
ネガティブ・フェイスへの配慮の程度差
例:エアコン弱くして⇒エアコン弱くしてくれない?⇒エアコン弱くしてもらってもいい?⇒エアコン弱くしてもらえるとありがたいんですけど
丁寧さの原理
1980年代に、リーチによって提唱されたもの
相手との関係を円滑にしていくための配慮に関する原理。6つの公理。
1.気配りの公理
相手の負担は最小限に、相手の利益を最大限にせよ
例:いつでも都合の良い日をおっしゃってください。どうぞおすきなだけ召し上がってください
2.寛大性の公理
自分のは利益最小限に、自分の負担を最大限にせよ
例:ご要望の日時に合わせて都合をつけます。では、ひとつだけいただきます。
3.是認の公理
相手への非難は最小限に、相手への称賛を最大限にせよ
例:相手の髪型が変わったが似合ってない時⇒だいぶイメージ変わったね
4.謙遜の公理
自分への称賛は最小限に、自分への非難を最大限にせよ
例:来ている服をほめられたとき⇒いえいえ安物ですよ
5.合意の公理
相手との意見の相違を最小限に、相手との意見の合意を最大限にせよ
例:自分がつまらなかったと感じた映画を友人が、面白かったね⇒うん、相当お金かけてるよね
6.共感の公理
相手への反感を最小限に、相手との共感を最大限にせよ
例:友人が勉強しなかったのでテストで良い点が取れなかった⇒テスト残念だったね(勉強しなかったことを言わない)
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