認知言語学
1980年代後半から台頭してきた新しい言語理論(ラネカー、レイコフ、ジョンソン)
言語能力は一般的な認知能力と区別するころはできないと主張する。この点において、言語の能力を他の認知能力から独立したものとして捉える生成文法論と異なっている。
20世紀の言語理論
1920年代 構造主義言語学 ⇒音声・音韻的側面・形態的側面
1950年代 生成文法理論 構造主義言語学に対立する理論を展開 ⇒統語的側面
1980年代 認知言語学 ⇒意味的側面
認知言語学
特徴
「身体性」を重視する点や、「比喩」を意味の説明に取り入れる点などが、それまでの言語学的枠組みにない大きな特徴
言語の身体性
身体基盤
日常的な言語表現には、身体を基盤とした比喩的な表現が多くあることから、認知言語学では身体性が重視されている
名詞レベル
人間の認知能力の根底には、人間としての身体的な感覚、人間らしい概念把握の仕方
例:釘の頭 財布の口、椅子の脚
文レベル
人間の基本動作を用いた表現
例:話が見えない 要点を掴む
認知言語学における比喩
新しい物事やそれを現す表現が存在しない場合、人間は、人間の身体や身近な物に見立てて、新たな表現を作り出す。その際に重要な役割を果たすのが、「比喩」でると、認知言語学では考える。
人間は、身近な人間の身体に見立てて、新たな表現を作り出す、ということを見てきた。この「新たな表現を作りだす」ための見立ては、人間の身体だけでなく、身近な物も使われる。
比喩的に表そうとする認知能力が人間にはある。
従来、「比喩」は、詞歌や小説などの文学的な修辞法として、非日常的な「洒落た表現」だと考えられてきた。しかし、認知言語学では、比喩は「洒落た表現」だけだなく、人間の日常的な表現に不可欠なものと考える。特に、意味論で見た「多義語」では、「比喩」が大きな役割を果たしている。
カテゴリー
ある属性、性質、特徴、関係などの共通性を持ったひとまとまりのものを「カテゴリー」という。
古典的カテゴリー
同じカテゴリーの事例では、全て均等に同じ性質や関係をもつと考えられてきた。この考え方は、前回の「意味論」で取り上げた「成分分析」にも表れている。
古典的カテゴリーでは、共通する特徴を、あるかないかで捉えようとするので、典型例から外れる例は、共通の特徴をため、そのカテゴリーに含まれないことになってしまう。
例:ラグビーボールは、丸くない
プロトタイプ的カテゴリー
カテゴリーの境界は明確なものではない。あるカテゴリーは「プロトタイプ」を中心に、外側へ行くに従って段階的にその特性が薄れ、周辺では他のカテゴリーと連続的に重なる。つまり、カテゴリーは全て均一ではない。
カテゴリーの段階性=プロトタイプ効果
例:コップ~グラス
プロトタイプの特徴
すぐに思い描けるもの 多くの人が同じように認定できる 幼いころから慣れ親しんでいる 長期的に安定的に記憶されている
このようなプロトタイプがそのカテゴリーの中心に位置する。
非プロトタイプ(周辺的成員)の特徴
プロトタイプ的な特徴の何れかを持っていない
例:鳥らしくない鳥=フクロウ、ペリカン、ペンギン
カテゴリーの拡張
例:「晴れ」「曇り」は天気のカテゴリーから心情のカテゴリーへ拡張が認められる
「意味の拡張」は「カテゴリーの拡張」であると考える。
意味の拡張を引き起こすものが「比喩」である。
比喩
メタファー(隠喩) メトニミー(換喩) シネクドキ(提喩)
メタファー(隠喩)
類似性の連想に基づき、「よくわからないもの」を「よくわかるもの」で表す比喩
例:パソコンのマウス=ねすみに似ている クラウド=くも 気が晴れる 心が弾む 心が踊る
メトニミー(換喩)
目立つものを使って、隣接関係にあるものを表す
例:鍋を食べる=中身 洗濯機が回る=部分 ショパンを聴く=作品
シネクドキ(提喩)
上位語と下位語の包摂関係に基づく比喩的拡張で、「上位概念」で「下位概念」を指したり、「下位概念」で「上位概念」を指したりする。
例:お花見=桜 コーヒーでも飲みに行こう=飲物
知識構造
認知言語学では、ある表現の理解には、言語的な意味だけではなく、それ以外の様々な知識や経験などが働いていると考える。それぞれの知識・経験・は、個別に存在するわけではなく、一定の構造を持って整理されている。
スキーマ フレーム スクリプト
スキーマ
個々の具体的な細かい特徴を捨象した抽象的な知識構造
認知言語学では、音韻、形態、語彙、意味、構文にもスキーマを認める
例:動詞「タ形」のスキーマ
語幹+{タ/イタ/ッタ/ンダ} 食べた 書いた 切った 読んだ
フレーム
ある概念を理解するのに前提となるような知識構造をいう
フレーム的な知識が多く必要な語は理解や説明が難しい
例:「桃太郎のお話」に出てくる キジの説明は易しいが、家来の説明は難しい
スクリプト
時系列に沿った連続する具体的な場面によって構成される知識構造 シナリオ、シーン ともいう
例:スーパーで買い物をする
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